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事業完了報告

2025/03/24更新

事業概要

事業期間開始日 2024/06/18終了日 2025/02/28
対象地域石川県輪島市門前町黒島町
事業対象者

黒島地区の住民全員(2次避難者を含む)

事業対象者人数

約280人(うち、2次避難者は約210人)

事業概要

黒島地区は能登半島唯一の重要伝統的建造物群保存地区である。約300棟の住宅のほとんどが被災したが、応急修理を行おうにも伝統的な工法で作られた住宅が多いため技術的な問題があり、また地元工務店は応急仮設住宅の建設等で忙しいことから、多くの住宅は被災した当時のまま手付かずの状態になっている。
震災直後から住民有志が地域主体の復興まちづくり活動に取り組み、2024年4月に「黒島みらい会議」を正式に設立して、個々の住民の生活状況や2次避難の状況、まちの復興に向けた意向調査などを行ってきた。その結果、約280人の住民のうち約75%が2次避難をしており、地区内に留まった住民も被災して建具もないような住宅や避難所でかろうじて生活している状況が把握された。応急仮設住宅は不足しており、2次避難者も、戻ってきても居場所がないため「帰りたくても帰れない」状態が続いている。時間が経てば戻る人は少なくなり、人が戻らなければまちの復興はできない。住民の間にあきらめムードも漂い始めており、まちは存続の危機にある。そのムードを払拭し、まちの復興に希望が持てるようにするために、早急に地区内に留まった住民の住まいの安全確保と2次避難者の帰還を実現することが喫緊の課題となっている。その課題解決のために「黒島みらい会議」の本格的な事務局体制を立ち上げて住民や2次避難者に寄り添いながら、金沢や全国の建築家や建築職人等との連携によりリソース不足を解消して、以下の4つの支援を行う。
①地区内居住者の自宅の不十分な生活環境と安全性を改善するための応急修理への支援
②自宅が半壊・一部損壊の2次避難者の自宅の応急修理による帰還への支援
③自宅が全壊・倒壊した2次避難者の空き家活用による帰還への支援
④経済的な問題等を抱える2次避難者への各種団体による支援とのマッチング

事業の総括およびその価値

本事業は、重要伝統的建造物群保存地区である黒島地区の復興に向けて、早期に住宅の安全を確保し2次避難者の帰還を促すことを目指して実施してきた。当初は県内外の建築家の協力を得て短期集中型で全建物の診断調査と個別相談を行う考えだったが、住民からは随時対応と本格修理までの継続支援が求められたことから、支援を求める人への寄り添い支援を行いながら緊急対策や応急措置の実例を増やすことで、2次避難者の帰還意欲を促す方針で取り組んだ。2月5日までに284棟(倒壊・無被害を含む)のうち65棟の相談に対応し、うち45棟は応急修理を実施済み又は本格修理の目途がついている。
この活動を行ったことで、住宅の修理や帰還を諦めていた人も希望を持つようになり、当初は約70人だった地区内居住者は、現在は約140人(近隣の仮設住宅居住者を含む)に倍増した。今後のまちづくりや伝統文化の継承に向けた取組みも開始されている。

課題設定、事業設計に関する振返り

本事業は重伝建としての町並みの再生に向けて、住民の連絡網の作成や空き家所有者の把握、専門家による個別相談、被災建物の緊急対策等を行うことで、住民に住宅修理と帰還を促す内容で設計した。結果、地区内居住者は倍増し、住宅修理やまちづくりの取組みも始まり、本事業の目的は果たせたと言える。
一方、短期集中型の個別相談を随時対応に転換したため事務局負担が増大したこと、個別相談と緊急対策には建築士20名、大工等15名の体制で臨んだが、それでも人員不足に陥ったこと、9月の豪雨災害の影響で工務店不足が長期化し、なかなか本格修理に至らなかったことなどの問題もあった。
そのような問題を抱えつつも目的を果たせたのは、住民有志と外部支援者が住民に寄り添いながら、熱意を持って行動する姿を示し続けてきたことの効果が大きい。その熱意と行動が諦めかけていた住民の心を動かし、希望を抱かせる結果につながったものと考えられる。

今回の事業実施で達成される状態

短期アウトカム

1地区内に留まっている住民の自宅の応急修理が完了し、みな自宅で安心して暮らしている
指標応急修理等により自宅で安心して暮らす地区内居住者数
目標値・目標状態約70人(現在の地区内居住者全員)
アウトカム:結果計画より遅れている
アウトカム:考察被災後も地区内に居住し続けた約70人は、それぞれ自宅の応急修理の実施や本格修理に取組み、みな安心して居住を継続できている。ただし、建築士や工務店の不足等により本格修理に時間を要するため、修理を待つ間の応急仮設住宅への一時入居を余儀なくされている人もいる。
2連絡網で応急修理の取り組みが広まって2次避難者の帰還意欲が高まり、自宅が修理可能な2次避難者の多くは自宅に帰還している
指標自宅の応急修理により帰還した2次避難者数
目標値・目標状態自宅が修理可能な2次避難者数(個別相談により人数を把握)
アウトカム:結果計画より遅れている
アウトカム:考察自宅の応急修理等により2次避難者が帰還し、現在の地区内居住者は約140人(応急仮設住宅入居者を含む)と倍増している。しかし、本格修理に時間を要しているため、まだ帰還できずにいる2次避難者もいる。 現在、残りの120〜130人のうち約半分の50人〜60人と、黒島地区への帰還について話している。
3空き家活用による帰還の道が拓かれ、自宅が全壊・倒壊している2次避難者の一部も空き家を借りて帰還し始めている
指標空き家活用により帰還した2次避難者数
目標値・目標状態自宅が修理困難な2次避難者数(個別相談により人数を把握)
アウトカム:結果計画より遅れている
アウトカム:考察空き家活用による帰還を検討する人もいたが、空き家の応急修理に対する公的支援はなく、文化財復旧事業を活用した本格修理には時間を要するため、実現例はまだない。また、まちの将来像がまだ不透明な状態であるため空き家所有者の修理・活用意向も高まらない状況にある。今後の町並みの再生に向けて、地区に多く存在する空き家の積極的な修理・活用を促すような「まちづくりビジョン」の提案が大きな課題となっている。
4各種団体による支援ネットワークが構築されて経済的な理由等を抱える2次避難者にも帰還の道が拓かれ、一部の人は既に帰還している
指標経済的な理由等を抱える2次避難者数
目標値・目標状態不明(上記の内数)
アウトカム:結果計画より遅れている
アウトカム:考察文化財復旧事業の拡充と県の復興交付金による支援により住宅修理に係る経済的な負担は緩和されたが、それでも問題が解消しない住民も存在するものと考えられる。しかし、そのような住民はなかなか自分からは打ち明けてくれないためまだ実態は把握できていない。また、並行して行政や金融機関と災害公営住宅の誘致、サービス付き高齢者向け住宅の建設、まちづくりファンドの創設などについて協議したが、それらは広域の復興まちづくりと関連するため黒島地区単独ではいかんともし難く、まだ提案レベルにとどまっている。

アウトプット

1連絡網の作成により、地区内の住民と2次避難者全員への情報連絡が円滑に行えるようになり、相互のコミュニケーションも復活する
指標地区内居住者と2次避難者の所在と連絡先の把握数
目標値・目標状態約280人の概ね全員の所在と連絡先がリスト化され、電話やLINE等を利用した相互のコミュニケーションが可能になっており、情報連絡や相談対応が確実にできる体制が整っている
アウトカム:結果計画どおり進んでいる
アウトカム:考察現時点で住民の約8割と日常的に連絡が取れる体制となっており、可能な方とはほぼすべての方と連絡が取れる状況になっていると考えている。残りの約2割について、その半数ぐらいは元々一人暮らしで、黒島に戻ることが難しく、施設に入ったり、話せない状況ではないかと想定される。その他、黒島地区を離れていた子どもの居場所まで目処がついた世帯もあるが、それ以上の後追いはできていない。
2空き家所有者の連絡先が概ね把握され、応急修理や空き家活用の相談に応じられる連絡体制が整備される
指標空き家の所有者数
目標値・目標状態約100棟の空き家の所有者と連絡先が概ね把握できている
アウトカム:結果計画より遅れている
アウトカム:考察空き家所有者の約4割が把握できているが、全数の把握には至っていない。地区としては、空き家の所有者が把握されないことによって、「危険と言い切れない建物」が放置されてしまうなど、街並みや安全面で影響があるが、登記を調べても前の世代の人の名前しか出てこないため、自治会や町内会、ご近所の人が把握しているかどうかが頼りだが、両方がわからないとどうにもならない状況である。
3建築家や大工等の支援ネットワークが構築され、住民や所有者の要望に応じて、随時、診断調査や個別相談、緊急対策に応じられる体制が整備される
指標個別相談等の申込件数に対する対応割合
目標値・目標状態100%(全申込者への対応)
アウトカム:結果計画どおり進んでいる
アウトカム:考察能登復興建築人会議や構造研究者など約20名の建築家による住宅相談チームを結成し、建物診断調査や個別相談の継続的に取り組んでいる。また、金沢職人大学校OBなど約15名の大工・職人による緊急対策チームも結成し、被災した建物の雨漏り対策・倒壊防止対策・寒さ対策等の緊急対策と応急修理への支援も進めてきた。専門家不足・職人不足が課題になる中で、他のエリアとの掛け持ちで取り組んでくれた専門家・職人もいるが、この支援ネットワークによる活動は他地区からも高く評価され、今後も活動を期待されている。
4建築家による診断調査と個別相談により、個々の建物の被災状況に応じた応急修理計画が提案される
指標個別相談等の対象建物棟数に対する提案割合
目標値・目標状態100%(全対象建物への提案)
アウトカム:結果計画どおり進んでいる
アウトカム:考察相談件数は65件あり、診断調査は61件、相談者への応急修理計画の提案に関する報告書の作成・提出は40件を数え、その他の相談に対しては建築家等による個別対応が行われている。 現時点で黒島地区への帰還・住宅の修繕を検討している人にはアプローチできていると考えている。 震災から1年が経過し、行政の支援内容が明らかになり、やっと将来について考えられるようになる人もいる。また、余震状況も今後の方向性の検討に大きな影響を及ぼしており、まだ決めかねている人もいる。 今後は、黒島地区への帰還を考え始めたときに、きちんと連絡が取れる状況にしておくために、広報活動や寄り添い活動をしていくことが必要だと考えている。
5冬を越すために雨漏り対策や倒壊防止対策、寒さ対策などが必要な住宅には、大工等による緊急対策が施される
指標診断調査により緊急対策が必要とされた建物数に対する実施割合
目標値・目標状態100%(全対象建物への実施)
アウトカム:結果計画どおり進んでいる
アウトカム:考察9月より大工・職人チームによる被災建物の緊急対策活動を開始し、住民の求めに応じて22件の緊急対策を行ってきた。また、並行して本格修理の相談や見積作成にも応じ、本格修理に向けた取組みを牽引する起爆剤となった。本格修理に向けた動きが加速する中で、今は緊急対策へのニーズは弱まっており、2月以降は本格修理に向けた建築士や工務店の斡旋、行政手続きの支援などへと、支援ニーズが移行している。
6建築家の支援により、各相談者は重要伝統的建造物群保存地区の復旧事業を活用した本格修理の見通しが付き、一部は着工に向けて動き始めている
指標本格修理に向けた継続支援の希望者数に対する対応割合
目標値・目標状態100%(全希望者への対応)
アウトカム:結果計画より遅れている
アウトカム:考察相談を受けた65件のうち32件は担当する建築士又は工務店が決まっており、8件が復旧事業申請済みである。しかし、物件数が多く建築士も工務店も手一杯で、住宅相談や緊急対策には応じられても、本格修理の受注は躊躇する建築士・工務店などもいる。そのため、建築士も工務店も決まらず斡旋を待つ者が12件おり、今後も取組みの継続が期待されている。 住民側においても、診断調査は行ったものの、今後の方向性についてさまざまな理由から決まっていない・決めかねている人もおり、そのような人たちが方向性を決める後押し、決めた時に相談対応できる関係性をつないでおきたいと考えている。
7黒島みらい会議から住民全体に「復興まちづくりビジョン(案)」が提案され、まちの復興に向けた気運と2次避難者の帰還意欲が高まる
指標連絡可能な住民、空き家所有者数に対する「復興まちづくりビジョン(案)」の周知割合
目標値・目標状態100%(連絡可能な住民と空き家所有者全員への周知)
アウトカム:結果計画どおり進んでいる
アウトカム:考察住宅相談と緊急対策の実施により復興まちづくりの気運も高まり、黒島みらい会議では今後の黒島地区のまちづくりに向けた意見交換を重ね、12月と1月に勉強会を開催して、2月の定例会で黒島みらい会議としての「復興まちづくりビジョン(案)」をまとめた。今後この案を地区住民全体に提案し、復興まちづくりの具体的な検討と取組みを展開していく予定である。また、その一環として2月に「八千代栄踊りの会」を開催し、ボランティア学生の協力を得ながら黒島地区の伝統文化を後世に伝えるための活動も開始した。

活動

1①連絡網の作成 黒島みらい会議が進めている2次避難者の所在確認の成果を活用して、地区内に居住する住民や2次避難者への情報連絡と、相互のコミュニケーションが図れるように連絡網を作成する。また、住民間の円滑なコミュニケーションに向けてLINE等のSNSを活用するとともに、SNSに参加できない者に対しても電話や郵便による情報連絡や相談対応が確実にできるよう、黒島みらい会議の本格的な事務局体制を設立する。
活動結果ほぼ計画通り
概要黒島みらい会議事務局による聞き取り調査などにより住民の約8割の連絡先を把握でき、電話や郵便により日常的に連絡を取り合っている。一部の住民とはLINEやFacebookを活用したコミュニケーションも行えている。また、SNSでのコミュニケーションが行えない住民への情報周知の媒体として「黒島未来新聞」を編集発行する体制を整え、これまでに2回発行している。
2②空き家所有者の把握 黒島みらい会議が取り組んでいる空き家の所有者確認をさらに進め、住民への聞き取り調査では所有者が把握できない建物については登記簿等で所有者を確認し、空き家の所有者情報を可能な限り把握する。
活動結果遅延あり
概要空き家所有者については、個別の声がけや区長さんへの聞き取りなどにより把握を進めた。しかしながら把握できているのは約4割である。登記を調べても前の世代の人の名前しか出てこないため、これ以上の把握はなかなか難しいのが実情である。
3③住宅修理支援ネットワークの構築 住宅の診断調査や個別相談、緊急対策の要望に随時対応するために、県内外の建築家や大工等による住宅修理支援ネットワークを構築し、その活動を適切なコーディネートと円滑な推進に向けた事務局体制を整備する。
活動結果計画通り
概要黒島みらい会議事務局メンバーや仲間の声かけにより、能登復興建築人会議や構造研究者など約20名の建築家による住宅相談チームを結成し、建物診断調査や個別相談に継続的に取り組んでいる。また、金沢職人大学校OBなど約15名の大工・職人による緊急対策チームも結成した。被災地であるとともに、伝統的工法で専門的な知見が必要であることから、この人材発掘とネットワーク構築が非常に難しかった。
4④建築家による住宅の診断調査と個別相談の実施 住民や所有者の希望に応じて、個々の住宅の被災状況と、応急修理の必要性と可能性を確認するために、県内外の建築家や構造研究者による診断調査と個別相談を行い、その調査結果と住民や所有者の意向を基に個々の住宅の応急修理計画を作成・提案する。
活動結果計画通り
概要住宅の診断調査をする建築士等と個別相談に対応する相談員(現地事務局)とペアで訪問。相談員が困りごとや修善意向等について聞き取りしている間に、建築士等が調査や撮影を実施。その後、相談員のヒアリングをもとに、追加ヒアリング調査する形で進めた。現地事務局の負担が大きくなってしまったが、相談員自身も、補助金を活用して空き家を修繕した経験や、建築士などの専門家的知見を持っていたこともあり、専門家との意思疎通は多少スムーズに進んだ。
5⑤大工等による緊急対策の実施 被災直後に、ボランティアによる支援活動のひとつとしてブルーシートによる雨漏り対策などが行われたように、冬を越すために新たな緊急対策が必要とされる住宅を対象に、住民や所有者の希望に応じて、大工等による当面の雨漏り対策や倒壊防止対策、寒さ対策などの緊急対策を実施する。
活動結果計画通り
概要本格修理に向けた専門家の体制整備が困難な中、豪雨が発生。少しでも良い保存状態で住宅を保つため、冬も見据えて、9月より大工・職人チームによる被災建物の緊急対策活動を開始した。住民の求めに応じて、雨漏り対策・倒壊防止対策・寒さ対策等の緊急対策と応急修理支援を実施。また、並行して本格修理の相談や見積作成にも応じ、本格修理に向けた取組みを牽引する起爆剤となった。
6⑥本格修理に向けた寄り添い支援 個別相談において住宅確保の支援メニューの紹介を行うとともに、住民や所有者の継続的な支援への希望に応じて、引き続き、建築家による本格修理の提案や工務店等の斡旋、資金計画の検討、行政手続きのサポートなど、本格修理の実施に向けた寄り添い支援を行う。寄り添い支援は担当建築家が決まり個別の補助金事業が開始するまでとする。
活動結果計画通り
概要本格修理に進めるにあたり、業務量、伝統工法への理解、文化庁等への申請の知識など、複合的な要因により、その計画を立てる設計士、見積を取る工務店、作業人材がいないという状況であった。その中で個別声かけにより、建築士や工務店とマッチングを行った。また、本格修理の期間中に家財道具を一時保管する場所として、住民や2次避難者が共同で利用する倉庫用コンテナを公民館敷地内に3基設置し、運用を開始した。 修理期間中の家財道具一時保管場所の確保 本格修理の期間中に家財道具を一時保管する場所として、住民や2次避難者が共同で利用する倉庫用コンテナを3基購入し、地区内に設置する。このコンテナは日本都市計画家協会が所有し、今後5年間は当該用途に供するものとする。設置場所は、日本都市計画家協会が別途確保し地代等も自己財源により負担する。 本格修理の期間中に家財道具を一時保管する場所として、黒島地区の公民館の駐車場に、住民や2次避難者が共同で利用する倉庫用コンテナを3基設置した。 本格修理がはじまる物件があり、利用者も決まっている。 運用の仕組みとして、管理は日本都市計画家協会、「住民はコンテナ使用中は一時保証金を支払い、コンテナを空にして返還した際に保証金を返金する」ということで、黒島みらい会議で合意している。
7⑦「復興まちづくりビジョン」の提案に向けた取り組み 今後の町並み再生や空き家・空き地の活用に向けた「復興まちづくりビジョン」を提案するために、まちづくり専門家のコーディネートによる住民有志対象のワークショップの開催や関係機関等との協議・調整、住民全体にまちの復興の気運を伝え、新たな支援者・協力者を呼び込むための地区内外への情報発信などを行う。
活動結果計画通り
概要黒島みらい会議の定例会議でビジョンに向けた対話を実施。勉強会も2回開催し、2月に「復興まちづくりビジョン(案)」をまとめた。今後は、この案を地区住民全体に提案し、具体的な検討と取組みを展開する予定。黒島地区の伝統文化を後世に伝える取組としてボランティア学生の協力により「八千代栄踊りの会」を開催。行政や金融機関と災害公営住宅の誘致、サービス付き高齢者向け住宅の建設、まちづくりファンドの創設等について協議中である。
8

資金分配団体としての非資金的支援の取り組み総括

1取り組み

想定外のアウトカム、活動、波及効果など

黒島地区では被災後の早期に住民組織が設立され、NPO法人日本都市計画家協会と共同で住民主体による復興に取組んできた。その地域の意欲と外部支援組織との連携体制は行政や専門家から高く評価されモデルとして注目された。そして、被災地全体で公費解体の申請が膨大な数となり、早期復興や能登半島の景観維持などの観点から既存ストック活用が大きな課題となったため、重伝建であるが故に被災建物の修理に取組んできた黒島地区の活動がさらに注目され、更なる展開も期待されるようになった。現在、能登復興建築人会議と全国古民家再生協会が各地で相談会を開催しているが、まだ黒島地区のような寄り添い型の支援には至らないため、他地区から「うちの地区でも同じ活動をして欲しい」と要望されている。また、深刻な過疎化と住民の高齢化に悩む被災地において、黒島地区の外部支援組織との密接な連携による活動体制を他地区も求めるようになり、NPO法人日本都市計画家協会では9月から、別途、門前地区の総持寺通り商店街の復興支援も行うようになった。それがきっかけとなって地区間の交流が育まれ、現在は門前町の各地区が連携した復興を模索する動きも始まっている。

事業終了時の課題を取り巻く環境や対象者の変化と次の活動

課題を取り巻く変化

令和6年4月1日時点の黒島地区の高齢化率は75%で、住民の多くは復興の思いはあっても自ら積極的に取組むことは難しい。そのため、移住者や外部支援者が復興活動の主体とならざるを得ない状況にあることが明らかになった。今後、外部支援者も自ら復興活動の担い手となる覚悟を持って地域に関わる必要がある。
建築士や大工等の支援ネットワークに関しては、黒島地区で実施している1対1の寄り添い型支援は即時対応の調整が難しく、建築の専門家の常駐が必要であることがわかった。黒島地区の良さをよく理解した者が協力できるよう、業界内での支援体制づくりの必要性も明らかになった。
また、個々の被災者と専門家チームをつなぐ現地事務局の大切さと作業量の膨大さが明らかになった。被災者が事務局を担う場合、日々のほぼ全て時間を復興活動に費やさなければならず、当人の本来事業の復興は後回しにならざるを得ない。その間の収入の手当なしに住民主体の復興は実現し得ないことが明らかになった。
以上の経験を踏まえて、事業終了後は休眠預金活用事業(災害支援コース)により、これまでの活動をさらに発展させた活動に取組む予定である。

外部との連携実績

1活動能登復興建築人会議等との連携による住宅相談の実施
実施内容住宅相談の実施にあたり、能登復興建築人会議や構造研究者チーム等と連携して実施体制を整えながら取組んだ。
結果・成果・影響等得意分野が異なる者が連携協力することで相互補完が可能になり、最終的に黒島みらい会議に相談窓口を一本化することで、住民のわかりやすさと安心感を得ることができた。この体制は被災地全体への展開を期待されている。 伝統的建造物の場合、建築士でも構造的に判断できない部分もあり、構造チームに調査してもらうことで、今後の修繕の方向性の判断ができるようになり、効果的であることがわかった。
2活動金沢職人大学校OB等の協力による被災建物の緊急対策の実施
実施内容被災建物緊急対策の実施にあたり、金沢職人大学校OBの協力により大工・職人チームの編成を図った。
結果・成果・影響等9月の豪雨災害の影響により、県内の工務店は需要過多の状態にあり、代替策として建築士のネットワークにより県外の大工等の協力を得て緊急対策を実施した。引き続き、金沢職人大学校OBとの連携は維持している。 震災による被害の相談・調査が進み、今後に向けてどう修繕を進めていくか期待が高まる中での豪雨災害であり、その影響で修繕が進まないことが住民にとっても、地区にとっても、今回の活動においても停滞感を生んでいた。その中で、小さくとも緊急修繕を行なったことが、次の本格修繕の動きにつながったと考えている。
3活動文化庁や輪島市との連携による建物修理の推進
実施内容当初から文化庁や輪島市文化課と連携を図りながら取組みを進め、11月3日には合同で住宅修理の説明会を開催した。
結果・成果・影響等当初から文化庁や輪島市文化課と連携し、行政の事業を把握するとともに必要な支援をお願いしながら、黒島みらい会議としては、行政の事業にはない領域について取り組みを進めてきた。11月3日の行政による支援内容の説明会においても、黒島みらい会議が民間の相談窓口として活動していることが紹介された。
4活動早稲田大学及び明治大学との連携による「八千代栄踊りの会」の開催
実施内容「復興まちづくりビジョン」の提案とその実現に向けた取組みの一環として、地区の伝統文化を後世に伝えるために学生ボランティアの協力による「八千代栄踊りの会」を企画・実施した。
結果・成果・影響等これまで地域の会合にはあまり参加しなかった者も含めて計24名の参加があり、学生とともに八千代栄踊りを踊り懇談した。参加者はみな久しぶりのレクリエーションで笑顔が絶えず、次回の早期開催が期待された。 また、この取組のもう1つの成果として、これまで活動の主軸を担ってきたメンバー以外の住民が企画・運営に関わった点が挙げられる。住民のペースへの配慮は必要であるが、高齢化率が75%を超え、担い手不足が課題となっている中、1人1人の住民と外部者との連携により活動が進むことは、1つの先進事例となった。

広報実績

メディア掲載(TV・ラジオ・新聞・雑誌・WEB等)あり
内容

2024年7月に黒島みらい会議がFacebookで黒島地区の復興に向けた取り組み状況の紹介を開始した。https://www.facebook.com/profile.php?id=61562075408489
また、NPO法人日本都市計画家協会では、行政や専門家向けの勉強会や研究会、シンポジウム等で黒島地区の取組みを紹介している。
2024年6月22日には、JSURP総会後に「能登の里海里山から考える能登半島型の復興の形」と題したシンポジウムを開催。その中で、黒島みらい会議の黒澤卓央、恵三子から「輪島市黒島地区の課題と取り組みの方向」、JSURPの神谷から「JSURPによる黒島地区支援の方向性」を報告。
またNPO天橋作事組から依頼があり、2025年3月20日に開催される宮津まちなみシンポジウムの中で、黒島みらい会議の黒澤卓央、恵三子から被災地からの報告として黒島みらい会議の活動について話をすることになっている。

広報制作物等あり
内容

本事業による個別相談の実施を周知するためにチラシを作成し、6月28日、29日、7月1日に全戸に対してポスティング配布を行なった。
黒島支援隊が発行し応急仮設住宅への入居者にも各戸配布している「黒島新聞」への記事掲載をした。
また、黒島みらい会議の活動状況の周知のために「黒島未来新聞」の編集発行を行い、これまでに2回(2024/11/3、2025/1/26)発行している。
黒島未来新聞は、
【第1号】発行部数 100部。住民説明会で配布するとともに、2次避難先には郵送で配布した。
【第2号】発行部数 150部。新聞折込の方法で町内及び仮設住宅に配布した。2次避難先にも郵送で配布した。

報告書等あり
内容

建物の診断調査と個別相談において、個別に調査・相談結果に基づいた応急修理計画の提案を報告書としてまとめ、各相談者へ提出している。

ガバナンス・コンプライアンス実績

規程類の整備状況

事業期間に整備が求められている規程類の整備は完了しましたか完了
内容

NPO法人日本都市計画家協会は事業開始当時から全ての規程を整備しており、黒島みらい会議も事業期間中に必要な規程は整備した。

整備が完了した規程類を自団体のwebサイト上で広く一般公開していますか一部公開
内容
変更があった規程類に関して報告しましたか変更があり報告済み
内容

規程類の変更については、逐次、資金分配団体に報告した。

ガバナンス・コンプライアンス体制

社員総会、評議会、株主総会、理事会、取締役会などは定款の定める通りに開催されていますかはい
内容

NPO法人日本都市計画家協会では、年1回の総会と月1回の理事会を開催している。黒島みらい会議も月一回の定例会を開催している。

内部通報制度は整備されていますかはい
内容

NPO法人日本都市計画家協会では、内部(コンプライアンス担当理事、監事、常務理事)に窓口を設置している。黒島みらい会議では、内部(議長、監事)とJANPIAの双方に窓口を設置している。

利益相反防止のための自己申告を定期的に行っていますかはい
コンプライアンス委員会またはコンプライアンス責任者を設置していましたかはい
ガバナンス・コンプライアンスの整備や強化施策を検討・実施しましたかはい
内容

設立間もない黒島みらい会議のガバナンス・コンプライアンス体制の整備を行った。

団体の決算書類に対する会計監査はどのように実施しましたか。本事業の最終年度の状況を選択してください(実施予定の場合含む)内部監査
内容

NPO法人日本都市計画家協会において、令和7年6月の総会までに監事2名が監査を行う。

本事業に対して、国や地方公共団体からの補助金・助成金等を申請、または受領していますかいいえ

その他

本助成を通じて組織として強化された事項や新たに認識した課題、今後の対応/あればよいと思う支援や改善を求めたい事項など

本事業を通じて最も強く感じたのは、現地事務局の大切さと深刻な過疎化、高齢化を抱える地域の担い手の欠如です。外部支援者も自ら担い手となる覚悟を持たなければ復興できず、本事業の過程で事業責任者は自ら空き家を取得し当事者の一人として継続的に地区の復興に取組む覚悟をしました。その行動は被災地の住民や行政を勇気づけることができたと自負しており、その発表をしてからはいつも深刻な気難しい顔をしていた地区住民の表情が笑顔に変わったことを実感しています。同様の問題認識を持つ支援者もそれが刺激になって空き家取得に動き初めています。
災害復興は基本的には住民自らが主体となって取組むべきことだとは思いますが、その担い手や、担い手に寄り添いながら支援する者の位置づけや経済的な支援はまだ不十分であり、思いはあっても経済的な余力のある者しか活動できない状況にあると思います。過疎地には意欲のある若者の活躍が不可欠です。今後の過疎地における災害復興に向けて、意欲ある若者に十分にチャンスを与え、また、現地事務局や事業全体をコーディネートする者にも十分な経済的支援が行き届くような仕組みを構築していただけると幸いです。